Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme
と罵りざま、豹が尾けるように粘ッて追いに追う。
いまはもう、喘ぎに、出ない声をふりしぼッて、俊基は、
「出合え、出合えっ……」
走りつつ、幾たびも、
「出合い候えッ」
と、四方へ援けを呼んでいた。
そして、陰陽寮から、中務省のまえまで逃げた。
おそらく、彼はそこから朝堂へ、転び入りたかッたにちがいない。――朝堂八省の内庭に入れば、大勢の公卿官人が執務している。
が、あいにく、そこへ通じる腋門(脇ノ門)は閉まっていた。
昭慶門や応天門へ廻るには、すくなからぬ距離である。いやそんな思考のいとまはない。俊基はもう“死眸の人”だった。大内山いちめんの五月のみどりも華麗な甍も、まっ暗だった。
「いけない!」
はっとしてか、彼は内裏の方へ、逃げかけた。
その裾を、鬼六の足に踏まれて、前へのめッた、でも、長い裳裾はどこからか断れて、彼の瀕死な影は、なお、よろ這いつつも逃げていた。
「出合えッ……。誰ぞ来てくれいッ……」
いかに広い皇居の内苑にせよ、この叫びが、どこかへ届いていないはずはない。近くには侍従ノ寮や内監鈴の建物もあったのだ。――にもかかわらず、松籟のほかは寂として、一人の公卿も駈けつけては来なかったのである。