Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme
それは、勇気や腕の問題ではなかった。なかなか来ない機会のせいでもない。自分のなかのものである。いい知れない心の暗さに、まだ犯してもいない自己の影が、すでに黒い罪に染まっているような、やりきれなさであった。
「これが、自分か」
日を追って、人相はけわしくなる。げッそりと削げてきた頬が、手にさえわかる。
「こんな鬼の顔。……ああ、ゆめ、卯木には見せたくない」
だから彼は、卯木の許へは、その間、いちども通っていなかった。
ひたぶるに、
「大判事、姿を見せよ」
と、附近の空地や邸外に、鬼の影を、さまよわせていた。
むなしく月余も過ぎるうち、まま彼は、いやな噂を耳にした。――世間での、章房その人の評判である。「いまの世にめずらしいよいお人だ。職務上では、切れるような御裁決だが、かりそめにも、賄賂などはお取りにならず、貧しい者への涙もある」と、いった類の声なのだ。これは元成を萎縮させた。鬼の耳は、相手の善性など、受けつけたくない。
とはいえ、彼自身、自身の勇気を、しだいに懐疑しだしていた。――当初は彼も自信し、主の成輔も見込んだところの大胆さだの熱情の性は、要するに、女の許へ会いにゆく恋の闇なればこそ燃えたもので、人を殺すにも湧き出る勇でも一途でもなかったのである。