Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme
愛馬の青毛や、供の者を外において、正成はいつものような機嫌で、迎える家族たちの顔の中を、式台から奥へ通って来た。
「おう正季。お汝も来ていたのか」
「ちと御相談があって、お疲れの折とは思いましたが」
「何ぞ、急用かの」
「は。明日の打合せで」
「待ってくれ。……久子」
と、妻を見て、
「風呂は」
「ご用意してありまする」
「正季。一しょに、一ト浴みせぬか。なにしろ、この汗と埃だ」
「ま。あちらで、お待ちしておりましょう。どうぞお先に」
正成は湯殿口で、妻の久子に、夜の膳には、酒をつけよ、といいつけてから衣服を脱いだ。弟の酒好きを知っているからだろう。
湯につかる。
掛樋の水も、ポトポトと心ぼそい。
だが、人間にはまだ、使うだけの水がある。田や畑の物は、だまって、旱の猛威の下に枯れているが、これが人間だったら、どうだろう。そんな世もやがて来ないとは限らない。
「おもえば恐い」
こんな山間の、せまい領下を、今日半日、歩いてみても感じられる。
世相は、けわしい。人心はカサカサだ。あらゆる事態が、世間を可燃性なものにすべく努めている。火ツケ役の出現を待っているような相である。