Japanische Klassiker mit Furigana
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おに
聴雨・蛍 織田作之助短篇集
織田 作之助
Lesen Sie 聴雨・蛍 織田作之助短篇集 (おに) von 織田 作之助 (おださくのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.483 Zeichen · 41 Bildschirme
そしてまた、普通の女ならさっさと帰ってしまうだろうに、いつまでも清荒神の駅に佇んでいる女の気持も、従順とか無智とかいうよりも、何か思いつめた一途さだった。
新吉の勘は、その中年の男女に情痴のにおいをふと嗅ぎつけていた。情痴といって悪ければ、彼等の夫婦関係には、電報で呼び寄せて、ぜひ話し合わねばならぬ何かが孕んでいるに違いない。子供に飯を食べさせている最中に飛び出して来たという女のあわて方は、彼等の夫婦関係がただごとでない証拠だと、新吉は独断していた。夜更けの時間のせいかも知れない。
しかし、ふと女が素足にはいていた藁草履のみじめさを想いだすと、もう新吉は世間に引き戻されて情痴のにおいはにわかに薄らいでしまった。
どうしても会わねばならないと思いつめた女の一途さに、情痴のにおいを嗅ぐのは、昨日の感覚であり、今日の世相の前にサジを投げ出してしまった新吉にその感覚がふと甦ったのは当然とはいうものの、しかし女の一途さにかぶさっている世相の暗い影から眼をそむけることはやはり不可能だった。
しかし、世相の暗さを四十時間思い続けて来た新吉にとっては、もう世相にふれることは反吐が出るくらいたまらなかった。