Japanische Klassiker mit Furigana
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あぢさい
花火・来訪者 他十一篇
永井 荷風
Lesen Sie 花火・来訪者 他十一篇 (あぢさい) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 52.046 Zeichen · 104 Bildschirme
慶三はその夜すごすごと家へ帰るが否や、お千代の許へ簡単に暇をやる旨を書き送った。実は先方から何とか一言位は挨拶でもあるかと心待ちに待っていたが、それなり音沙汰がないので、結句手切金をやるの遣らぬのと云うような面倒な事にならなかったのを幸いと、慶三もそれなりぱったり見切をつけてしまった。
三月ばかりたって丁度一の酉の来る時分、慶三は商用でこの近所まで来た処から、その時の好奇心でそっと以前の妾宅の前を通って見た。戸が締って貸家札が張ってある。慶三はお千代の行方が知れなくなったかと思うと急に名残惜しいような気がし出した。折から横町を通りかかる芸者の姿を見れば猶更以前の淫楽が思返されてならぬ。慶三は気まりの悪い事も何も彼も打忘れて、曲角の酒屋でそれとなく引越先を聞くと、四十ばかりの内儀さんが訳もなく、
「先月からこの先の横町で待合をしておいでですよ。電気燈に千代香ッて書いて御座います。」
慶三は礼を云うが否や駈出すように、教えられた横町を這入ると片側は芸者家つづき片側は小待合ばかり並んだ中に直様その名を見付け得た。案内も待たず飛込みたい位気がせき立っていながら、門口へ来ると妙に気遅れがして慶三は二、三度行きつ戻りつした後、何か思案したらしく、軒つづきの隣の待合の格子戸を開けた。