Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おちてゆくせかい

落ちてゆく世界

久坂 葉子

Lesen Sie 落ちてゆく世界 (おちてゆくせかい) von 久坂 葉子 (くさかようこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.725 Zeichen · 40 Bildschirme

Aozora Bunko

長い廊下をつきあたるとすぐその端の部屋が兄の病室でありました。庭に咲いた菊を五六本、新聞紙に包んだのを私は持っております。ノックをすると低い声で返事がありました。

「おはようございます。いかが、御気分は」

「やあ」

兄は上半身を起して私の方をみました。

「きれいな菊、中庭のかい」

「ええそう、香りはあまりないけれど」

私はコスモスが枯れたままつっこんであるペルシャの青い壺に、その菊を活けました。白いはなびらときいろい芯とがこの青い壺にはよくうつります。柔い丸みの壺の肌を、兄は大変好んでいて、売れば随分の価になるものでしたけれど、兄のためにおいてあるのでした。

「兄様、父様に輸血をしたの」

「父様随分おわるいの?」

「そんなでもないのよ、いつもの如くなの。雪子の五百円也の血……、ふふ」

私は白いお皿を思い出して笑いました。

「五百円って?」

「売ったのよ、血を……」

「え、お前、父様に? そして五百円受けとったの?」

「いけない? 雪子、それみな使ったわ、今度ん時は兄様、モツァルトのレコード買ったげるわね」

「親子じゃないか、しようのないひとだ」

話はとぎれます。私はサンダーボックスのふたをあけて、兄の好きなというより、もう心酔してしまっているモツァルトのものをかけ出しました。