Japanische Klassiker mit Furigana
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むし
虫
江戸川 乱歩
Lesen Sie 虫 (むし) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 44.053 Zeichen · 86 Bildschirme
土蔵の出入口の、厚い土の扉には、内からも外からも錠を卸す仕掛けにして、彼がその二階にいる時は、内側から、外出の際は外側から、戸締りが出来る様になっていた。それは謂わば、怪談の明かずの部屋に類するものであった。
傭婆さんは、家主の世話で、殆ど理想に近い人が得られた。身寄りのない六十五歳の年寄りであったが、耳が遠い外には、これという病気もなく、至極まめまめした、小綺麗な老人であった。何より有難いのは、そんな婆さんにも似合わず、楽天的な呑気者で、主人が何者であるか、彼が土蔵の中で何をしているか、という様なことを、猜疑し穿鑿しなかったことである。彼女は所定の給金をきちんきちんと貰って、炊事の暇々には、草花をいじったり、念仏を唱えたりして、それですっかり満足している様に見えた。
云うまでもなく、柾木愛造は、その土蔵の二階の、昼だか夜だか分らない様な、薄暗い部屋で、彼の多くの時間を費した。赤茶けた古書の頁をくって一日をつぶすこともあった。ひねもす部屋の真中に仰臥して、仏像や壁にかけたお能の面を眺めながら、不可思議な幻想に耽ることもあった。そうしていると、いつともなく日が暮れて、頭の上の小さな窓の外の、黒天鵞絨の空に、お伽噺の様な星がまたたいていたりした。