Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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へんさいじょき

貢太郎見聞録

田中 貢太郎

Lesen Sie 貢太郎見聞録 (へんさいじょき) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 29.162 Zeichen · 59 Bildschirme

Aozora Bunko

火事だ火事だという声が人びとの口から漏れるようになった。牛込の下宿から私の家の安否を気使うて来てくれた若い友達は、砲兵工廠が焼けていると言った。私はその友達と一緒に電車通りを伝通院前へと往った。渦を捲いている人波の中には、蒲団などを蓋の上にまで乱雑に積みあげた箱車を数人の男女で押している者、台八車に箪笥や風呂敷包の類を積んでいる者、湯巻と襦袢の肌に嬰児を負ぶって小さな子供の手を曳いている者、衣類の入った箪笥の抽出しを肩にした者、シャツ一枚で金庫を提げた者、畳を担いだ者、猫のような老婆を負ぶった者、頭を血みどろにした若い男を横抱きにした者、そうした人たちが眼先が暗んでいるように紛紛として歩いていた。その人たちは頭髪を見なければ両性の区別がつかなかった。

砲兵工廠は火になっていた。春日町の方へと曲って往く電車線路の曲り角から、その一部の建物の屋根の青い焔を立てて燃えているのが見られた。私たちは安藤坂をおりて往った。砲兵工廠の火は、江戸川縁にかけて立ち並んだ人家を包んで燃えていた。私たちはその江戸川縁を左に折れて往った。街路に沿うた方の家だけは地震に屋根瓦を震い落され、または簷を破られて傾きかけたままの姿を見せていた。