Japanische Klassiker mit Furigana
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かとにん
過渡人
豊島 与志雄
Lesen Sie 過渡人 (かとにん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 20.206 Zeichen · 41 Bildschirme
……或はただ俺一人の生活に誤った所があったのかも知れない。然し俺一人にあるんじゃない。……そうだ君にも罪はない。……分ったか。」
笹尾は矢島さんの鋭い眼差しの前に、また一歩身を引いた。
矢島さんはそのまま黙然として空間を見つめた。
「それではこれで御免被ります。」と笹尾は眼を伏せながら云った。
「よく考えてみるがいい。」と矢島さんはふと我に返ったような優しい調子で云った。「俺からはどうも君をまた使うわけにはゆかない。然し君が工夫仲間を説き廻って、皆から僕にそれを願う形にしたら、また元通り使ってやって宜しい。君にそれだけの勇気があるか。」
「よく考えてみることに致します。」と笹尾はきっぱりと唇を震わした。
「ではまた用があったら何時でもやって来給え。」
笹尾は丁寧に頭を下げて出て行った。
矢島さんは立ち上って窓を一杯開け放した。初春の霞みを込めた麗かな光線が大気に一杯満ちていた。その遠い空のはてまで矢島さんは視線を投げた。然し彼はすぐに疲れ切った者のようにがくりと身を安楽椅子の上に投げ出した。何かぼんやりしたものが彼の心を緊めつけた。彼はじっと涙のにじみ出るような眼を見開いていた。