Japanische Klassiker mit Furigana
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ななこ
野菊の墓
伊藤 左千夫
Lesen Sie 野菊の墓 (ななこ) von 伊藤 左千夫 (いとうさちお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 71.271 Zeichen · 144 Bildschirme
今井の宅には洋燈もついてほかに知人もひとりおった。上がってからおよそ十五、六分も過ぎたと思う時分に、あわただしき迎えのものは、長女とお手伝いであった。
「お父さん大へんです、奈々ちゃんが池へ落ちて……」
それやっと口から出たか出ないかも覚えがなく、人を押しのけて飛び出した。飛び出る間際にも、
「奈々子は泣いたかッ」
と問うたら、長女の声でまだ泣かないと聞こえた。自分はその不安な一語を耳にはさんで、走りに走った。走れば十分とはかからぬ間なれど肥った自分には息切れがしてほとんどのめりそうである。ようやく家近く来ると梅子が走ってきた。自分はまた、
「奈々子は泣いたか」
「まだ泣かない、お父さんまだ医者も来ない」
自分はあわてながらもむつかしいなと腹に思いつつなお一息と走った。
わやわやと騒がしい家の中は薄暗い。妻は台所の土間に藁火を焚いて、裸体の死児をあたためようとしている。入口には二、三人近所の人もいたようなれどだれだかわからぬ。民子、秋子、雪子らの泣き声は耳にはいった。妻は自分を見るや泣き声を絞って、何だってもう浮いていたんですものどうしてえいやらわからないけれど、隣の人が藁火であたためなければっていうもんですから、これで生き返るでしょうか……。