Japanische Klassiker mit Furigana
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きんろう
金狼
久生 十蘭
Lesen Sie 金狼 (きんろう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 89.438 Zeichen · 179 Bildschirme
久我は、言葉をさがしながら、けっきょく、
「今晩は……」
と、それだけいった。いかにもまずい挨拶であった。
葵をアパートまでおくり届けると、久我はこころがときめいて、とてもこのまま眠られそうもなかったので、自分も自動車からおりると上衣をぬいで腕にかけ、快い初夏の夜風に胸を吹かせながら、あてもなく、またぶらぶらと新宿の方へ戻りはじめた。
久我はこの東京にひとりの知人もなかった。都会の孤独は、久我にとっては、じつにやりきれないものだったので、今晩の葵のやさしさは、こころの底まで沁みとおるようであった。
〈……葵も東京でひとりぽっちだと言っていたようだった、と彼はかんがえる。……あんな美しい娘が、どうしてひとりぽっちなのだろう。そういえば、病身らしいところはある。……あまり子供っぽい顔をしているからかしら。すこし、明るすぎる。……あの種類の顔は、見るひとに、いつも郷愁を感じさせる顔だ。二年前なら、このテエマでおれは詩をつくっていたろう。……しかし、いまは、すくなくともおれは詩人じゃない。……おっと、これは失礼〉
久我がこんなことを考えながら歩いていると、そこの路地から出て来た男に突きあたった。