Japanische Klassiker mit Furigana
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きんろう
金狼
久生 十蘭
Lesen Sie 金狼 (きんろう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 89.438 Zeichen · 179 Bildschirme
6
神戸へついて六日以来、この空は灰色の雲にとざされ、夕方になるときまって小雨を落した。その雨のなかでときどきゆるく汽笛が鳴る。それが葵のこころを茫漠とした悲しみのなかへひきいれるのだった。
すこしひろすぎる部屋のなかは、森閑として昼でもうす暗く、大きなダブルベッドもソファも卓も、花瓶の花も……、なにもかもみな乾き、しらじらとしらけわたっていた。
この二三日、葵はなにか得体の知れない感じにつき纒われ、わけもなく焦だったり憂鬱になったりしていた。時には涙までながれだすのだった。それがなんであるか、葵自身もはっきりと言い解くことが出来なかったが、強いていえば、不吉な予感というようなものだった。
葵は幸福だった。彼女は思いがけなく愛するひとを獲、しかもこれがその新婚旅行なのだった。久我はいつも優しく、彼女を喜ばすために、なにものも惜しまぬ風だった。
久我は葵のために露台と浴室のついた広い部屋をえらび、毎朝夥しい花を届けさせ、どこもかしこも花で埋めるのだった。毎朝葵は花のなかで眼をさます、この楽しさはたとえようがなかった。
二人は外出もせずに一日中部屋のなかで暮していた。