Japanische Klassiker mit Furigana
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ぎんさんじゅうまい
銀三十枚
国枝 史郎
Lesen Sie 銀三十枚 (ぎんさんじゅうまい) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 35.863 Zeichen · 73 Bildschirme
何にも考えないことにした。さあ仕事だ! さあ創作だ! 空想よ駈り立ててくれ!
年が改たまって新年となった。
妻の様子が変わって来た。
彼女と私とは恋愛によって、一緒になった夫婦であった。彼女は私を愛していた。ところがこの頃愛さなくなった。
「ねえ、お馬鹿ちゃん」
「ねえ、凸坊」
これが私への愛称であった。この頃ではそれを封じてしまった。彼女はひどく剽軽であった。途方もない警句を頻発しては、私を素晴らしく喜ばせてくれた。
「ね、ご覧なさいよ、ベッキイちゃんを、てまつくしているじゃアありませんか」
よく彼女はこんなことを云った。ベッキイというのは飼い犬であった。活動俳優の天才少女、ベビー・ベッキイの名を取って、彼女が命名けた犬の名であった。てまつくというのは手枕のことで、その飼い犬が寝ている様子を、そう形容して云ったのであった。
これは何でもない云い方かもしれない。しかし彼女が云う時は、光景が躍如とするのであった。犬ではなくて人間の、可愛い可愛いベッキイという少女が、さも愛くるしく手枕をして、眠っているように思われるのであった。
しかし彼女はこの頃では、もうそんなことも云わなくなった。