Japanische Klassiker mit Furigana
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まと
魔都
久生 十蘭
Lesen Sie 魔都 (まと) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 293.999 Zeichen · 578 Bildschirme
「今朝、岩井が「すず本」を脱け出すところを、写真まで撮られようとは知らなかったろう。どうだ、恐れ入ッたか」
笑子の全身にひどい変化が起きた。引く息ばかりになッて椅子の上にも居たたまらぬようにひどく慄え出す。両手でしッかり膝頭を掴んで押さえつけようとするんだが、膝の方はいう事をきかない。一層ひどくガタガタやる。
真名古は毒々しい口調で、
「何だ何だ、そのざまァ。ひどく慄えるじゃないか、大した度胸もない癖に大それた真似をしやがって」
笑子は嗄れたような声で、
「岩井がどうとかって、あたし、まるっきり……」
「やかましい。岩井が「すず本」を脱け出したのは三時四十分。帰って来たのは五時。帰って来た時は上衣も帽子もどこかへ放ってワイシャツとズボンだけだったろう。岩井は窓から首だけ入れて、おい、地袋の上へ何か敷いてくれ、靴下の裏が煤だらけなんだ、といったろう」
急に笑子の足袋の爪先を指差して、
「そらそら、お前が岩井の介錯をしてやった証拠に、足の爪先に、屋根の、風呂屋の煤がついているじゃないか」
笑子は、ハッとしたようすで、ひどく狼狽てて自分の足袋の爪先を見る。もちろん、煤などついていなかった。