Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
「お綱の腕のヤキが戻ってしまったのかしら? ……」こう思う間に、いつか自分は自分ひとりで、涙橋の上に立っていた。
「ああ、よそう、よそう……とんでもないことをするところだった。スリはやめると万吉さんにざんげをした私じゃないか。自分でも、二度とこの悪い指は使うまいと、心に誓っていたんじゃないか……。上方の四天王寺で掏った紙入れ一つから、どんな因果がむくわれて、幾多の人を不幸な目に会わしたか、その怖ろしい輪廻をまざまざ見ている今じゃないか……」
今夜のお綱の心というものは、まったく冷静であり純であった。お三輪や乙吉の感化かも知れない。けれど、そのために、不幸な妹弟が救えなくなった。
「すみません……」
誰にいうのでもなく、お綱はこういって、涙橋の欄干へうッ伏した。過去の罪を思うて、唐草銀五郎にわびるのか、不憫な妹弟たちへ詫びるのか、或いは、神のような形なきものへひれ伏したのか。
橋の夜霜が袖に着く。
下には堀の水がゆるやかに流れていた。隅田川から入ってくる猪牙舟や屋形船が夜寒の灯を伏せて漕ぎぬけてゆく。
頭のしんが痛んできたのか、お綱は顔を上げなかった。