Japanische Klassiker mit Furigana
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むぎわらぼうし
麦藁帽子
山本 周五郎
Lesen Sie 麦藁帽子 (むぎわらぼうし) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 6.888 Zeichen · 14 Bildschirme
「それから二三日して」
老人はしばらくまをおいて続けた。
「約束どおり柿が届いてきましたよ、どうしたらいいだ……わしはすっかり困っただ、向うはもう他人の嫁だでのう、もし世間にひろまりでもしたらと思うと、どうにも決心のつけようがなかったでさ。考えに考えたが――やはり若かっただなあ、わしは出かけて行きましたよ、神戸の森へ」
老人の声はかすかに顫えを帯び、沖を見やっている眼には明かになにか滲出ていた。
「だが彼女は来なかった、午が過ぎても、日が暮れても、夜まで待ったがとうとうあれは来なかった、むろんそりゃそのほうがいいだ、わしは帰って来て寝ましたじゃ、そしてそれからこっちずっと、わしはあれの顔を見ずに過しましただ、何十年も何十年も」
斧田はその話を聞きながら、老人のいう彼女が松屋敷の絹子ではあるまいかと思い、話のどれだけが真実であるかを考える余地もないほど自分が感動させられているのに気付いた。
「それそれ、喰っていますぞ」
老人に注意されて斧田は急いで棹をあげたが、餌をとられた鈎が空しくあがって来たにすぎなかった。
「わしが一番心配したのは、あれがいつまでもわしのことを気懸りに思っていやせぬかということじゃった。