Japanische Klassiker mit Furigana
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どんてん
21世紀の日本人へ 永井荷風
永井 荷風
Lesen Sie 21世紀の日本人へ 永井荷風 (どんてん) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 24.356 Zeichen · 51 Bildschirme
月が出る。月の光は夕日の反映が西の空から消え去らぬ中、早くも深夜に異らぬ光を放ち、どこからともなく漂ってくる木犀の薫が、柔かで冷い絹のように人の肌を撫る。このしめやかな、云うに云われぬ肉と心との官覚は、目にも見えず耳にも聞えないものにまで、明かに秋らしい色調を帯びさせて来る。いつぞや初音を試みたなり黙ってしまった※(「虫+車」、第3水準1-91-55)は、そういう晩から再び鳴きはじめて、いよいよ自分達の時代が来たと云わぬばかり、夜ごと夜ごとにその声を強くしその調子を高めて行く。
二百十日が近くなって、雨が多くなると、一雨ごとに虫の声は多くなる。ワグネルの音楽のように入り乱れて湧立つ如く鳴きしきる。
やがて時節は彼岸になる。十五夜の月見が年によって彼岸の中日と同じになることもある。昼夜等分の頃が※(「虫+車」、第3水準1-91-55)の合奏の最も調子が高く最も力のつよいその絶頂であろう。
山の手では人の往来のかなり激しい道のはたにも暗くならぬ中から、下町では路地の芥箱から夜通し微妙な秋の曲が放送せられる。道端や芥箱のみではない。※(「虫+車」、第3水準1-91-55)の鳴く音はやがて格子戸の内、風呂場や台所のすみずみからも聞えて来るようになるのである。