Japanische Klassiker mit Furigana
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いのちのしょや
いのちの初夜
北条 民雄
Lesen Sie いのちの初夜 (いのちのしょや) von 北条 民雄 (ほうじょうたみお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 31.366 Zeichen · 63 Bildschirme
二、三日の中に金券と換えて差し上げます」
金券、とは初めて聞いた言葉であったが、おそらくはこの病院のみで定められた特殊な金を使わされるのであろうと尾田はすぐ推察したが、初めて尾田の前に露呈した病院の組織の一端を摘み取ると同時に、監獄へ行く罪人のような戦慄を覚えた。だんだん身動きもできなくなるのではあるまいかと不安でならなくなり、親爪をもぎ取られた蟹のようになって行く自分のみじめさを知った。ただ地面をうろうろと這い廻ってばかりいる蟹を彼は思い浮かべて見るのであった。
その時廊下の向こうでどっと挙がる喚声が聞こえて来た。思わず肩を竦めていると、急にばたばたと駈け出す足音が響いて来た。とたんに風呂場の入口の硝子戸が開くと、腐った梨のような貌がにゅっと出て来た。尾田はあっと小さく叫んで一歩後ずさり、顔からさっと血の引くのを覚えた。奇怪な貌だった。泥のように色艶が全くなく、ちょっとつつけば膿汁が飛び出すかと思われるほどぶくぶくと脹らんで、その上に眉毛が一本も生えていないため怪しくも間の抜けたのっぺら棒であった。駈け出したためか昂奮した息をふうふう吐きながら、黄色く爛れた眼でじろじろと尾田を見るのであった。