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Japanische Klassiker mit Furigana

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このにぎりめし

この握りめし

岸田 国士

Lesen Sie この握りめし (このにぎりめし) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.649 Zeichen · 27 Bildschirme

Aozora Bunko

、自分より彼の方が数等上手だとは思いたくなかつた。それにしても、芸術家という資格と無関係ではないかも知れぬが、もつとほかに、どことなく言うに言われぬ親しみ、ほかの誰からも得られぬ温かさがうるおい、時には、烈しい火のようなものを胸の奥深く注ぎ込まれるのである。

増田健次は、たまたまひとり駐在所の一隅で彼の風貌を想い浮べる時、ふと、平沢事件の主人公の職業が記憶の中に蘇る。これも芸術家なら、あれも芸術家であつた。才能の比較はもちろんできないけれども、絵かきという天分に於て、その性質は変る筈はないと思われた。

この連想は不幸にして、増田健次の職業的本能を刺激した。二重人格という言葉が、その事件の当時、新聞にも使われていたところから、彼は、岡本弘のうちに、もう一人の人物がひそんでいたら、という根拠のない疑念に囚われはじめたのである。

しかし、その疑念は、岡本の宿をたずね、しばらく彼と対坐しているうちに、跡かたもなく晴れるのが常であつた。

と、秋もようやく過ぎて、十二月の声をきく頃、その日、朝から降りだした雪が、もう夕方には、膝を埋めるようになり、バスも午後から通わぬという始末であつたが、増田健次はその日の日誌をつけ終ると、急に岡本弘に会いたくなり、ゴム靴の底にたまる雪をはたきはたき、信濃屋の玄関をはいつた。