Japanische Klassiker mit Furigana
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きつねつき
ちくま日本文学012 中島敦
Lesen Sie ちくま日本文学012 中島敦 (きつねつき) von Nakajima Atsushi (中島 敦) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.136 Zeichen · 19 Bildschirme
「俺は、もと、この木乃伊だったんだよ。たしかに。」
パリスカスがこの言葉を口にした時、木乃伊が、心持、脣の隅をゆがめたように思われた。どこから光が落ちて来るのか、木乃伊の顔の所だけ仄明るく浮上っていて、はっきり見えるのである。
今や、闇を劈く電光の一閃の中に、遠い過去の世の記憶が、一どきに蘇って来た。彼の魂がかつて、この木乃伊に宿っていた時の様々な記憶が。砂地の灼けつくような陽の直射や、木蔭の微風のそよぎや、氾濫のあとの泥のにおいや、繁華な大通を行交う白衣の人々の姿や、沐浴のあとの香油の匂や、薄暗い神殿の奥に跪いた時の冷やかな石の感触や、そうした生々しい感覚の記憶の群が忘却の淵から一時に蘇って、殺到して来た。
その頃、彼はプターの神殿の祭司ででもあったのだろうか。だろうか、と云うのは、彼のかつて見、触れ、経験した事物が今彼の眼前に蘇って来るだけで、その頃の彼自身の姿は一向に浮かんでこないからである。
ふと、自分が神前に捧げた犠牲の牡牛の、もの悲しい眼が、浮かんで来た。誰か、自分のよく知っている人間の眼に似ているなと思う。そうだ。確かに、あの女だ。