Japanische Klassiker mit Furigana
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きつねつき
ちくま日本文学012 中島敦
Lesen Sie ちくま日本文学012 中島敦 (きつねつき) von Nakajima Atsushi (中島 敦) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.136 Zeichen · 19 Bildschirme
目の眩むような下降感に思わず眼を閉じる。――――
そこで彼の過去の世の記憶はぷっつり切れている。さて、それから幾百年間の意識の闇が続いたものか、再び気が付いた時は、(すなわち、それは今のことだが)一人の波斯の軍人として、(波斯人としての生活を数十年送った後)己のかつての身体の木乃伊の前に立っていたのである。
奇怪な神秘の顕現に慄然としながら、今、彼の魂は、北国の冬の湖の氷のように極度に澄明に、極度に張りつめている。それはなおも、埋没した前世の記憶の底を凝視し続ける。そこには、深海の闇に自ら光を放つ盲魚共のように、彼の過去の世の経験の数々が音もなく眠っているのである。
その時、闇の底から、彼の魂の眼は、一つの奇怪な前世の己の姿を見付け出した。
前世の自分が、ある薄暗い小室の中で、一つの木乃伊と向い合って立っている。おののきつつ、前世の自分は、その木乃伊が前々世の己の身体であることを確認せねばならない。今と同じような薄暗さ、うすら冷たさ、埃っぽいにおいの中で、前世の己は、忽然と、前々世の己の生活を思出す……
彼はぞっとした。一体どうしたことだ。この恐ろしい一致は。