Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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やぶからし

やぶからし

山本 周五郎

Lesen Sie やぶからし von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 22.476 Zeichen · 44 Bildschirme

Aozora Bunko

三

――どうぞ来てくれませんように。

わたくしはそう祈った。行燈が暗くしてあり、明るくしなければいけないと思いながら、もう立つことはできなかった。酔っているのだろう、あの方のよろめく足音がし、襖の辷る音が聞えた。わたくしは痛いほど強く懐剣を握り緊め、歯をくいしばった。

あの方の寝間は、わたくしの部屋と中廊下を隔てて向きあっていた。廊下を踏む足音が聞え、わたくしの部屋の襖があいた。わたくしは心臓が喉へ突きあげてくるような苦しさにおそわれ、息が止った。あの方はあけた襖のあいだからこちらを眺め、それからゆっくりとはいって来た。

三

あの方は立ったまま、唇を曲げて、わたくしをつくづくと見まもった。蒼白い、仮面のような顔に、歪んだ嘲笑が、刻みつけられでもしたように動かず、血ばしった眼は、けものめいた光りを放っていた。獲物を覘うのではなく、敵を威嚇するけものの眼のように感じられた。

懐剣は袋に入れたままである。袋から出さなければ、と思ったけれど、わたくしは身動きもせずに、あの方の眼を放さずみつめていた。あの方はふらふらと前へ出た。

「おい」とあの方は顎をしゃくった、「おい、ごりっぱな、けだかい、おきれいな御婦人、但し、みかけだけだがね、わかるか」