Japanische Klassiker mit Furigana
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オンチ
オンチ
夢野 久作
Lesen Sie オンチ von 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 20.673 Zeichen · 42 Bildschirme
その時に又野がパッタリと立止まった。
「アッ。きょうは十日……俸給日じゃろ」
「アハハ。いよいよオンチだなあ。だからこうして事務室の方へまわっているんじゃねえか」
「俺あ徹夜が一番、苦手じゃ。睡うて腹が減って叶わん。頭がボーとなって来る」
又野が毛ムクジャラの手の甲で顔をゴシゴシとこすった。ほかの二人も立止まった。
「ハハハ。俸給を忘れる奴があるかえ」と、笑いながら三好がポケットからバットの箱を出した。
「俸給は十時から渡すんだっけな」と戸塚もカメリヤの袋を出しかけた。
「……オイ……あれを見い……」
と又野が突然に背後を指した。
鉄屑の堆積越しにコスモスのチラチラ光るテニス・コートの向うから、事務員風の男が来かかっている。霜降背広に、カラの高い無帽の男で顔はよくわからないが、黒い鞄を両手で抱え込んで、何か考え考え俯向き勝ちの小急ぎに、仄白いサーブ・ラインを横切って来る。
その背後から今一人、鳥打帽を目深く冠って、黒い布片で覆面をした菜葉服の男が、新しい地下足袋を踏み締め踏み締め、殺気立った足取で跟いて来る。軍手を穿めた手にステッキ位の黒い棒をシッカリと構えているが、腰を屈げているので背丈の高さはわからない。