Japanische Klassiker mit Furigana
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カインのまつえい
カインの末裔 クララの出家
有島 武郎
Lesen Sie カインの末裔 クララの出家 (カインのまつえい) von 有島 武郎 (ありしまたけお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 45.864 Zeichen · 93 Bildschirme
また彼れの方を向いて、
「そうじゃろがの」
それに違いなかった。しかし彼れはその男を見ると虫唾が走った。それも百姓に珍らしい長い顔の男で、禿げ上った額から左の半面にかけて火傷の跡がてらてらと光り、下瞼が赤くべっかんこをしていた。そして唇が紙のように薄かった。
帳場と呼ばれた男はその事なら飲み込めたという風に、時々上眼で睨み睨み、色々な事を彼れに聞き糺した。そして帳場机の中から、美濃紙に細々と活字を刷った書類を出して、それに広岡仁右衛門という彼れの名と生れ故郷とを記入して、よく読んでから判を押せといって二通つき出した。仁右衛門(これから彼れという代りに仁右衛門と呼ぼう)は固より明盲だったが、農場でも漁場でも鉱山でも飯を食うためにはそういう紙の端に盲判を押さなければならないという事は心得ていた。彼れは腹がけの丼の中を探り廻わしてぼろぼろの紙の塊をつかみ出した。そして筍の皮を剥ぐように幾枚もの紙を剥がすと真黒になった三文判がころがり出た。彼れはそれに息気を吹きかけて証書に孔のあくほど押しつけた。そして渡された一枚を判と一緒に丼の底にしまってしまった。これだけの事で飯の種にありつけるのはありがたい事だった。