Japanische Klassiker mit Furigana
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キャラコさん
キャラコさん
久生 十蘭
Lesen Sie キャラコさん von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 28.043 Zeichen · 56 Bildschirme
秋作氏は、親類でも奥さんでもないお嬢さんに、すっかり払わせて、このホテルに滞在しているのである。
四
たった一人きりになると、キャラコさんは走るようにピアノのそばへゆき、鍵盤に指を触れるが早いか、自分の弾く曲に夢中になってしまった。
正式に先生についたことはないが、ピアノは自己流でかなり達者に弾き、よく響く中音で上手に唄う。たいていありふれた平俗な曲がおもだが、時には即興で出まかせに唄うこともある。しかし、そのつまらぬ曲もキャラコさんがうたうと、まるで趣きのちがった味の深いものになってしまう。
大勢の前で唄ったことなど一度もないので、誰もそんなことは知らない。キャラコさん自身もてんで気がついていない。
ただ、長六閣下だけは、ぼんやりとその才能に感づいて、
「お前の唄には、なにか精神のごたるもんがある」
と、批評した。
ただの一度も音楽家になろうなどと考えたこともなければ、ひとに聴かしてほめられたいなどと考えたこともない。キャラコさんの場合、唱歌は一種の迸出作用で、小鳥における囀のようなものだといえよう。
三時ごろに、給仕が新聞をとりに入ってきただけで、ここのキャラコさんは完全に孤独だった。