Japanische Klassiker mit Furigana
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ズラかったしんきち
ズラかった信吉
宮本 百合子
Lesen Sie ズラかった信吉 (ズラかったしんきち) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 54.656 Zeichen · 110 Bildschirme
見物がてらブラついていたんだが、信吉は急にパンをかむのをやめて一つの硝子箱へ鼻をおしつけた。
米だぜ、こりゃ……!
「おい、ちょっと」
順を待ち切れずに信吉は、若い男の売子を呼んだ。
「この米、なんぼ?」
「半キロ一ルーブリ三十五カペイキ――子供の手帖もってるかね?」
「子供の手帖?」
バカにすんねえ。憚りながら一人前の大人だよ。信吉は威勢よく、
「これだ!」
と、ポケットからまだ新しい手帖を出して見せた。
「それじゃ駄目だ」
どうして※(疑問符感嘆符、1-8-77) すると、売子に砂糖をはからしていた若い女が愛嬌いい眼付で、笑いながら、
「米は、子供の手帖でだけ分けてくれるんだよ。それでなけりゃ、こういう手帖でなけりゃ駄目なのさ」
そう云って自分の赤い色の手帖を見せてくれた。
勢が挫けた信吉はおとなしく、
「それ、何の手帖だね」
ときいた。
「消費組合員の手帖さ……」
そして、いかにも気軽い調子でその女は信吉に云った。
「お前さんもお買いなね……どうして買わないの? 働いてるんだろ? じゃ何でもありゃしない。――あの窓口へ行ってそうお云い……ホラ、あの窓……」
年かさの女にすすめられ、信吉は断りきれなくなって、空箱をつみ上げた横の窓口へ行った。