Japanische Klassiker mit Furigana
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プウルのかたわらで
プウルの傍で
Lesen Sie プウルの傍で (プウルのかたわらで) von Nakajima Atsushi (中島 敦) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 16.843 Zeichen · 34 Bildschirme
「寝るんだよ。」と、もう一度、今度はやや烈しい口調で彼は言った。彼女は怯れたように身を退いた。彼が機嫌を悪くしている時、それに媚びようとする彼の黒猫の眼附が、今のこの女の表情に似ていた。突然彼は上衣の内ポケットから財布を出し、五十銭銀貨を四つ取出して、それを彼女の鏡台の上に重ねた。彼女は、更に恐れたように、三造と銀貨とを見較べながら、手を出そうとしなかった。彼はふと、女が可哀そうになり、やさしい調子で言った。
「いいんだよ。怒ってるんじゃないんだ。いいから銭をとって、お前だけ寝ればいいんだよ。」
女はまだ怪訝な表情を続けていた。それを見ていると、次第に、今度は、また腹が立って来そうなので、彼は女に構わずに「ポオルとヴィルジニイ」を読出した。が、やはり読めなかった。同じ処を何度も何度も繰返していた。その中に女は立上って、今度は、ほんとうに、身仕舞をして、床にはいったようであった。
プウルの上を渡る風が、そろそろ寒くなってきたようである。半身を水から出して立っていた三造は、くしゃみを一つすると、もうあがらなければいけない、と思った。わざと鉄梯子の所へ行かずに、水から二尺ほど高いたたきの縁に手を掛けて上ろうとすると、疲れているのか、妙に腕に力がはいらなかった。