Japanische Klassiker mit Furigana
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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Lesen Sie ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) von 梅崎 春生 (うめざきはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.411 Zeichen · 263 Bildschirme
三
そして二三分して、やっとその頁をめくり始めました。
ある頁までくると、いろいろ動いていた蟹江の表情が急に凝ったように固まり、視線も同じところを何度も往復するようでした。やがて疑惑と困惑のいろが、彼の顔面にぼんやりとただよい始めました。
三
『私はSを愛している』
とその頁には書いてあるのでした。
『Sは私の不幸をなぐさめて呉れる。そのなぐさめによって、やっと私は生きている』
蟹江は胸に不吉な鼓動をかんじながら、先に読み進みました。
すると次の頁の中頃に、日付がかわって、
『七月十五日。本日は晴天なり。
昼間よその黒猫が来て、台所から鰈を盗って逃げる。あの猫に盗られるのも、これでもう三度目だ』
そして一行あけて、
『あたしはSの背中が好きだ。Sの背中は広くてがっしりしている。
その背中のまんなかあたりに、小さな茶色の痣がある。直径は一センチメートル位かしら。そこに縮れた毛が三本生えている。抱くと私の指がそれに触れる。その感触。
痣には表情がある。悲しい表情。うれしい表情』
また一行あけて、こんどは詩みたいな形式で、
『痣は背中のまんなかだ。
痣は背中の定紋だ。