Japanische Klassiker mit Furigana
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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Lesen Sie ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) von 梅崎 春生 (うめざきはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.411 Zeichen · 263 Bildschirme
しかもその優越感の底に、ある意地悪さがかくされていたようだ。
『どうもこいつは怪しいぞ!』
勤め先の貸出台に坐っていても、そんなことを考えてばかりいるものですから、さっぱりと読書の能率もあがりません。そして口の中で、もぞもぞと呟いていたりするのです。
『猿沢佐介の背中には、きっとひとつの痣がある。しかも縮れた毛が三本……』
自分が信じていた幸福が、全部虚妄になったのに、猿沢佐介の方はいっこう不幸にもならず、楽しそうに暮している。それが漠然と憎らしく、また嫉ましいのでした。つまり対人感情から言えば、『すみれ』で知り合った頃の状態に、蟹江はすっかり戻ったわけです。一方猿沢の彼に対する態度も、結婚中とは異って、妙に慣れ慣れしく横柄になってきたようでした。すなわち知り合った頃のそれと、ほとんど同じ態度です。鷹揚に見せかけて鼻であしらったり、老獪な冗談を弄して彼を困らせたりする。それが蟹江のかんにさわるし、また漠然たる疑惑をうえつけたりするのでした。これはあるいは老いたる独身者の、意味もないヒステリー状態とでも言いますか。しかし久美子の日記の中の『S』の字は、今や万鈞の重みをもって、彼の全生活を押えつけているのでした。