Japanische Klassiker mit Furigana
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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Lesen Sie ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) von 梅崎 春生 (うめざきはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.411 Zeichen · 263 Bildschirme
店の奥の椅子には、色の白い若い女がひとりひっそりと腰かけていました。これはこの店の給仕女で、久美子という女です。給仕女といっても、酒をあたためたり肴を運んだりする、ただそれだけの役目でした。
猿沢が飲んでいるのは、一級酒の銚子でした。しかも肴を三四品並べたりして、なかなか豪勢な恰好です。これに反して蟹江の方の肴はたった一皿で、それも一番安い鰈の煮付けなのでした。表側はすっかり食べ終って、丁度いま裏にひっくりかえしてみたところです。
猿沢はしずかに盃を唇に持ってゆきながら、さっきからちらちら眼を動かして、久美子の様子をぬすみ見たり、蟹江のコップの方を眺めたりしていましたが、ふとその皿に眼をおとして、突然独り言のようなことを言いました。
「裏白の魚なんて、おかしなもんだねえ」
蟹江の酔った耳は、ふいとその呟きを聞きとがめました。それにいい加減酔いが廻って、話し相手が欲しくもなっていたので、彼はうっかりと顔をあげて問い返しました。
「なんだって。裏白の魚だって?」
「そうさ」と猿沢は、初めて蟹江の存在に気付いたような顔をよそおって、しごく鷹揚にうなずきました。