Japanische Klassiker mit Furigana
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いきりょう
久生十蘭ジュラネスク 珠玉傑作集
久生 十蘭
Lesen Sie 久生十蘭ジュラネスク 珠玉傑作集 (いきりょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 20.698 Zeichen · 42 Bildschirme
思いの深い眼で、じっくりと三十郎の顔を眺めてから、
「松久先生でしたのね、失礼いたしました。……あたし、てっきり狐だとばかし思って……」
「えッ、狐だと思ったって」
「この辺の狐は、よくそんな恰好に化けて来るといいますから。……褞袍を着て、頬冠りをして……」
三十郎は、馬鹿々々しくなって笑い出した。それでも、まだどこか化かされるのではないかという気がしていた。
「いや、これはどうも……僕はまた、あなたが狐だと思って」
「どうせ、ね」
「いい月ですな」
「いい月ですね」
「たぶん、あまり月のいいせいでしょう……ひどくウカウカしてしまって……さっき、川から見上げたときは、ほんとうに狐が踊っているのだと思いましたよ。だが、大丈夫でしょうな」
「何がですの」
「化かされているんじゃありますまいね」
「さあ、どうですか」
「それなら、それでもいいが。……それで、あなたは何者です」
「ですから、狐の眷族」
「そんなら、僕も人間なんかやめにして、茅の繁みでくゎんと鳴きましょうか」
「うれしいわ。……でも、あなた、こんな山深いところで辛抱がお出来になるかしら」
「出来ますとも」
「口で言うだけ……化かされるのは、あたしのほうらしいわ」