Japanische Klassiker mit Furigana
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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
Lesen Sie 二つの途 (ふたつのみち) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 51.102 Zeichen · 104 Bildschirme
その闇の中に覗き込むと、ただ茫として、怪しい幻が立ち罩めてるようだった。其処では個性が許されなかった。凡てが一つの大きな渦に融け込んでいた。彼は眼が眩むように覚えた。……はっと我に返ると、凡ての注意が一つ所に集められていた。彼はその急激な変化に、暫く息さえも出来なかった。やがて次第に何のことだか分ってきた。襖の外の廊下に何かの気配がした。彼は凡ての注意を其処に集めた。あたりがしいんとしていた。
「おい、お寝み!」と彼は信子に云った。
信子は、その声とその眼付とに、異常な何物かを感じた。「はい、」と答えて立ち上った。
啓介は襖の外に注意を集中していた。物の気配が静に遠ざかっていった。廊下の板がみしりと軽い音を立てた。信子は便所へ行った。すぐに戻って来た。彼の様子をちらと眺めて、床にはいった。彼はなお廊下の方に気を取られていた。
啓介には長い時間のようでもあれば、また僅かな間のようでもあった。再び何かの気配が廊下を伝って来た。彼の注意は鋭利に、病者特有の鋭利さに、研ぎすまされた。その何者かは、病室の前に来てぴたりと止った。静になった。襖がことりと一つ揺れた。