Japanische Klassiker mit Furigana
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じんがいまきょう
人外魔境
小栗 虫太郎
Lesen Sie 人外魔境 (じんがいまきょう) von 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 101.713 Zeichen · 205 Bildschirme
その峰は、ここが海抜約一万六千フィートとすれば、おそらくそれを抜くこと八千フィートあまりだろう。私はそこで、首の仰角をさらにたかめて空をみた。
まもなく、よもやそこにと思われる中空の雲のあいだから、ぬうっと突きでた深紅の絶巓――。おう、まだ地球が秘めている不思議の一つと思うまに、その紅の峰は瞬くまに姿を消した。とそこへ、麦粉と牛のバタを焼く礼拝のにおいがするので、みると、いまいた高僧をはじめ大勢が祈っている。私が、あの峰をなぜ拝むのかと訊くと、その高僧がつぎのように語ってくれた。
「チベット蔵経の、正蔵秘密部の主経に、孔雀王経と申すのがあります。そのなかに現われる毘沙門天の楽土が、そもそもあのお峰でござりまする。ではそれが、孔雀王経にはなんと書かれてありましょう。それは、ヒマラヤを越え北へゆくこと数千里、そこに氷に鎖される香酔なる群峰があり、その主峰をよんで阿羅迦槃陀といい、すなわちそれは、高原中の大都なる意でござりまする。おう、蓮芯中の宝玉よ、アーメン」
と、私は祝福され若干のお布施をとられた。これで、私の来世がはなはだ良いそうなのである。高僧は、なおも節のようなものをつけて、勿体そうに語ってゆく。