Japanische Klassiker mit Furigana
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しぐれがさ
人情武士道
山本 周五郎
Lesen Sie 人情武士道 (しぐれがさ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 24.700 Zeichen · 51 Bildschirme
――どうかしたのか。そう思いながら、簡単に髪を結んで堤を登ると、母親がこちらへ振返って眼で招いた。
「どうしたのです」
「おまえお忘れか、これはかねですよ」
「……かね」彼にはちょっと思い出せなかった。
「家にいたあのかねですよ」
至は呆れて女を見た。かねは母がとくに愛して、身近に使っていた婢である、気性のよい、縹緻も十人並に優れた娘で、――あれなら妻にしてもいいな。などと出入りする若侍たちに騒がれたくらいであった。三年まえに江戸の方へ縁づくからと、暇を取って去るときには、母は自分の娘にするほどの支度をしてやったものだった、それ以来ずっと消息が絶えていたのである。
「ほう、これは奇遇だな」至は眼を瞠った、「おまえ江戸へ嫁にいったというが、いつから此方へ来たんだ、見れば武家風で、……侍の家へ嫁いだのか」
「若さま、お恥しゅうございます」女は叫ぶように云いながら泣き伏した。
「かねは江戸へ行ったのではないのだよ」
「それはまた、どうした訳です」
「ずっと此処にいたのですと、此処で子を産んで、今日まで世間に隠れていたのですと、約束した相手の言葉を信じて、いつかは晴れて世に出られるものと、その日の来るのを待っていたのですって」