Japanische Klassiker mit Furigana
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いまどしんじゅう
今戸心中
広津 柳浪
Lesen Sie 今戸心中 (いまどしんじゅう) von 広津 柳浪 (ひろつりゅうろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.688 Zeichen · 74 Bildschirme
名山がふと廊下の足音を見返ると、吉里が今便所から出て湯殿の前を通るところであッた。しッと言ッた名山の声に、一同廊下を見返り、吉里の姿を見ると、さすがに気の毒になッて、顔を見合わせて言葉を発する者もなかッた。
* * *
吉里は用事をつけてここ十日ばかり店を退いているのである。病気ではないが、頬に痩せが見えるのに、化粧をしないので、顔の生地は荒れ色は蒼白ている。髪も櫛巻きにして巾も掛けずにいる。年も二歳ばかり急に老けたように見える。
火鉢の縁に臂をもたせて、両手で頭を押えてうつむいている吉里の前に、新造のお熊が煙管を杖にしてじろじろと見ている。
行燈は前の障子が開けてあり、丁字を結んで油煙が黒く発ッている。蓋を開けた硯箱の傍には、端を引き裂いた半切が転がり、手箪笥の抽匣を二段斜めに重ねて、唐紙の隅のところへ押しつけてある。
お熊が何か言おうとした矢先、階下でお熊を呼ぶ声が聞えた。お熊は返辞をして立とうとして、またちょいと蹲踞んだ。
「ねえ、よござんすか。今晩からでも店にお出なさいよ。店にさえおいなさりゃ、御内所のお神さんもお前さんを贔屓にしておいでなさるんだから、また何とでも談話がつくじゃアありませんか。