Japanische Klassiker mit Furigana
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いまどしんじゅう
今戸心中
広津 柳浪
Lesen Sie 今戸心中 (いまどしんじゅう) von 広津 柳浪 (ひろつりゅうろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.688 Zeichen · 74 Bildschirme
ね、よござんすか。あれ、また呼んでるよ。よござんすか、花魁。もう今じゃ来なさらないけれども、善さんなんぞも当分呼ばないことにして、ねえ花魁、よござんすか。ちょいと行ッて来ますからね、よく考えておいて下さいよ。今行くてえのにね、うるさく呼ぶじゃないか。よござんすか、花魁」
お熊は廊下へ出るとそのまま階下へ駈け出して行った。
吉里はじッと考えて、幾たびとなく溜息を吐いた。
「もういやなこッた。この上苦労したッて――この上苦労するがものアありゃしない。私しゃ本統に済まないねえ。西宮さんにも済まない。小万さんにも済まない。ああ」
吉里は歎息しながら、袂から皺になッた手紙を出した。手紙とは言いながら五六行の走り書きで、末にかしくの止めも見えぬ。幾たびか読み返すうちに、眼が一杯の涙になッた。ついに思いきった様子で、宛名は書かず、自分の本名のお里のさ印とのみ筆を加え、結び文にしてまた袂へ入れた。それでまたしばらく考えていた。
廊下の方に耳を澄ましながら、吉里は手箪笥の抽匣を行燈の前へ持ち出し、上の抽匣の底を探ッて、薄い紙包みを取り出した。中には平田の写真が入ッていた。