Japanische Klassiker mit Furigana
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しゃぼてんのはな
仙人掌の花
山本 禾太郎
Lesen Sie 仙人掌の花 (しゃぼてんのはな) von 山本 禾太郎 (やまもとのぎたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.282 Zeichen · 19 Bildschirme
(一)
閑枝は、この小さな北国の温泉町へ来てからは、夕方に湖水のほとりを歩くことが一番好きであった。
丘一つ距てた日本海に陽が落ちると、見る見るうちに湖面は黒くなって、対岸の灯が光を増すのであった。
陽が、とっぷりと暮れる。芦の葉ずれ、にぶい櫓声、柔かな砂土を踏むフェルト草履の感じ、それらのすべては、病を養う閑枝にとっては一殊淋しいものではあったが、また自分の心にピッタリと似合った好もしい淋しさでもあった。
そっと人にも隠れるようにして二階へ登った閑枝は、机の前に座ってホッと軽い溜息をつくと、ガラス窓からその窓一ぱいに黒く垂れ下った柳の葉に見入った。机の上に届いたばかりの二通の手紙にはちょいと視線を落したばかりで、それを手にとるでもなく、いま薬の包紙を開いたままコップに盛られた水をジッと瞶めた。ガラスを透してながめる美しい水、それが閑枝の心にヒンヤリと刃物に似た冷たさを思わせるのであった。
自殺! と云うことが、フト閑枝の心に浮んだ。この薬が毒薬だったら……、こう思うと、血を吐いて苦しんでいる自分の姿が幻覚となって自分の目に見えるのであった。