Japanische Klassiker mit Furigana
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えせものがたり
似而非物語
山本 周五郎
Lesen Sie 似而非物語 (えせものがたり) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 31.817 Zeichen · 64 Bildschirme
老人は谿流の中にある大きな岩を見ていた。それは岸から跳べるほどの位置にあった。およそ十抱えばかりの、上の平らなずっしりした岩で、川かみのほうへと傾いていた。老人のねむそうな眼に、かすかな感動の色があらわれた。彼は肩に掛けている旅嚢を揺りあげ、持っている萱笠をふらりと、その岩のほうへ振った。すると、老人の顔を緑色の影がかすめた。深く迫っている谷の両岸は、新緑の樹々に包まれていた、谷ぜんたいを掩い隠すほど繁った、色とりどりの若い鮮やかな緑が、笠の動きにつれて老人の顔に映ったのであった。
「おぬしゃあ誰だね、茶源の旦那かね」
うしろで声がした。
老人はふり向いた。痩せた小さな男が立っていた。貧相なしなびたようなとしよりで、継ぎはぎだらけの垢じみた半纒に、繩の帯を巻き、干からびて骨ばかりの脛は、ぶざまに外側へ曲っていた。彼はなにもはいていないはだしの爪尖で、道のしめった土をひっ掻きながら、眼脂だらけの眼でじろじろ相手を眺めまわした。
「おめえ弥市じゃねえか」
こちらの老人が云った。
「まだおめえ生きていただか」
「生きてただよ、おらこのとおり、ちゃんと生きてるだよ」