Japanische Klassiker mit Furigana
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るそんのつぼ
呂宋の壺
久生 十蘭
Lesen Sie 呂宋の壺 (るそんのつぼ) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.375 Zeichen · 36 Bildschirme
た。
三十日の夕方、どこかで、「陸だ」と呟く声がした。
遭難してから二十日目のことで、見張台の上の人間どもは、かすかに息が通っているというだけの、死の一歩手前の状態にあったので、「陸」という言葉がなにを意味するのか、思いだすことができなかった。しばらくして、また誰かが、「陸だ」と叫んだが、これも、なんの反応もおこさず、完全に無視された。
三度目に誰かが呟いたとき、吉之丞は、
「うん?」といって首をあげた。
吉之丞は、自分がいまどこにいるのかよくわからなかったが、さらしに包んだ枕元の葉茶壺を見ると、それで、いっぺんに記憶が甦った。
いま、たしかに陸といった。
助かるかも知れないと思うと、その期待で急に元気が出て来た。
吉之丞は起きあがって、陸のあるほうをながめた。
十町ほどむこうに、鉛色の泥湿地が、水面とおなじくらいの高さでひろがり、その涯は、ひょろりと伸びあがった生気のない樹林で区切られている。浅瀬の海にはところどころに泥堆が顔をだし、岸波がとどろくような音をたて巻きかえしている。
助かるどころの騒ぎではなかった。吉之丞は海岸のようすを見るなり、最悪の状態になっていることを一と眼で読みとった。