Japanische Klassiker mit Furigana
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かいそうろく
回想録
高村 光太郎
Lesen Sie 回想録 (かいそうろく) von 高村 光太郎 (たかむらこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 35.774 Zeichen · 71 Bildschirme
一
一
私の父は八十三で亡くなった。昭和九年だったから、私の何歳の時になるか、私は歳というものを殆と気にとめていない。実は結婚する時自分の妻の年も知らなかった。妻も私が何歳であるか訊きもしなかった。亡くなる五六年前に一緒に区役所に行って、初めてその時妻の歳を知ったが、三つ位しか違わぬことが分った。私は現在目の前にあるものを尊しと思う。昔どうだったというようなことは全然自分の考に附き纏わない。良ければなおいいし、悪くてもそれが現在良ければいい。そういう風だから、自分の過去を振返って、自分の行跡を解剖し、幾つまで何々が好きで、幾つの時にそれを清算してそれからこういう方面に切込んで行ったなどということを考えるのは煩い。だから考えたことはない。自己解剖など私にはさっぱり興味がない。そんな風で、この頃よく以前の歳を訊かれることがあるけれども、よく覚えていないようなわけである。
日記もつけたりつけなかったりである。生涯のうちでも一番緊張して重要な時は、日記などつける余裕もなく、従って後から一番知りたいと思うような時期の日記が欠けている。
又言うまでもないことだが、吾々の記憶というものも本当の事実に正確であるかどうかも甚だ覚束ない。