Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

今では死が彼にとって地上の風景を微小にしてしまったのだろうか。屋根の上の青空の遙かなところを、小さな飛行機が星のように流れていた。それは海岸の方向にむかって散ってゆくらしかった。

ある夜、彼は東京から帰る電車のなかで、遽かに人々の動揺する姿を見た。と、車内の灯は急に仄暗くなりつづいて電車は停車してしまった。窓の覆いを下げるもの、立上って扉のところから外を覗くもの、急いで鉄兜を被るもの……彼はしーんとした空気のなかに、ぼんやり坐っていた。間もなく電車は動きだした。次の駅に着いたとき、彼の側にいる女が外をのぞいて、駅の名前を叫んだ。それからその女は駅に来る度に、駅の名を叫んでいた。ふと、短いサイレンの音が聴きとれた。灯は全く消された。

「ああ落している、落している」と誰かが窓の外を覗いて叫んでいた。サーチライトの交錯した灯が遠くに小さく見えた。今、彼は自分のすぐ外側に異常な世界が展がっているのを、はっきりと感じた。だが、何かが、それとぴったり結びつくものが、彼のなかから脱落しているようなのだ。彼はぼんやりと、まわりの乗客を眺めていた。それは彼と何のかかわりもない、もの哀しい歴史のなかの一情景のようにおもえて来る。