Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
九月に入ると、雨ばかり降りつづいた。頭髪が脱け元気を失っていた甥がふと変調をきたした。鼻血が抜け、咽喉からも血の塊をごくごく吐いた。今夜が危なかろうというので、廿日市の兄たちも枕許に集った。つるつる坊主の蒼白の顔に、小さな縞の絹の着物を着せられて、ぐったり横わっている姿は文楽か何かの陰惨な人形のようであった。鼻孔には棉の栓が血に滲んでおり、洗面器は吐きだすもので真赤に染っていた。「がんばれよ」と、次兄は力の籠った低い声で励ました。彼は自分の火傷のまだ癒えていないのも忘れて、夢中で看護するのであった。不安な一夜が明けると、甥はそのまま奇蹟的に持ちこたえて行った。
甥と一緒に逃げて助かっていた級友の親から、その友達は死亡したという通知が来た。兄が廿日市で見かけたという保険会社の元気な老人も、その後歯齦から出血しだし間もなく死んでしまった。その老人が遭難した場所と私のいた地点とは二町と離れてはいなかった。
しぶとかった私の下痢は漸く緩和されていたが、体の衰弱してゆくことはどうにもならなかった。頭髪も目に見えて薄くなった。すぐ近くに見える低い山がすっかり白い靄につつまれていて、稲田はざわざわと揺れた。