Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
ある日、私が見舞に行くと、急に白髪の増えた頭を持あげ、いろんなことを喋った。彼はもうこの戦争が惨敗に近づいていることを予想し、国民は軍部に欺かれていたのだと微かに悲憤の声を洩らすのであった。そんな言葉をこの人の口からきこうとは思いがけぬことであった。日華事変の始った頃、この人は酔っぱらって、ひどく私に絡んで来たことがある。長い間陸軍技師をしていた彼には、私のようなものはいつも気に喰わぬ存在と思えたのであろう。私はこの人の半生を、さまざまのことを憶えている。この人のことについて書けば限りがないのであった。
私達は己斐に出ると、市電に乗替えた。市電は天満町まで通じていて、そこから仮橋を渡って向岸へ徒歩で連絡するのであった。この仮橋もやっと昨日あたりから通れるようになったものと見えて、三尺幅の一人しか歩けない材木の上を人はおそるおそる歩いて行くのであった。(その後も鉄橋はなかなか復旧せず、徒歩連絡のこの地域には闇市が栄えるようになったのである。)私達が姉の家に着いたのは昼まえであった。
天井の墜ち、壁の裂けている客間に親戚の者が四五人集っていた。姉は皆の顔を見ると、「あれも子供達に食べさせたいばっかしに、自分は弁当を持って行かず、雑炊食堂を歩いて昼餉をすませていたのです」