Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
それらの声はどこへ逃げうせて行っただろうか。おんみたちの背負わされていたギリギリの苦悩は消えうせたのだろうか。僕はふらふら歩き廻っている。僕のまわりを歩き廻っている無数の群衆は……僕ではない。僕ではない。僕ではない。僕ではなかったそれらの声はほんとうに消え失せて行ったのか。それらの声は戻ってくる。僕に戻ってくる。それらの声が担っていたものの荘厳さが僕の胸を押潰す。戻ってくる、戻ってくる、いろんな声が僕の耳に戻ってくる。
アア オ母サン オ父サン 早ク夜ガアケナイノカシラ
窪地で死悶えていた女学生の祈りが僕に戻ってくる。
兵隊サン 兵隊サン 助ケテ
鳥居の下で反転している火傷娘の真赤な泣声が僕に戻ってくる。
アア 誰カ僕ヲ助ケテ下サイ 看護婦サン 先生
真黒な口をひらいて、きれぎれに弱々しく訴えている青年の声が僕に戻ってくる、戻ってくる、戻ってくる、さまざまの嘆きの声のなかから、
ああ、つらい つらい
と、お前の最後の声が僕のなかできこえてくる。そうだ、僕は今漸くわかりかけて来た。僕がいつ頃から眠れなくなったのか、何年間僕が眠らないでいるのか。……あの頃から僕は人間の声の何ごともない音色のなかにも、ふと断末魔の音色がきこえた。