Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
各駅停車のその列車は地方色に染まり、窓の外の眺めものんびりしていたが、尾道の海が見えて来ると、久し振りに見る明るい緑の色にふと彼は惹きつけられた。それから、彼の眼は何かをむさぼるように、だんだん窓の外の景色に集中していた。彼は妻と死別れてから、これまで何度も妻の郷里を訪ねていた。それは妻の出生にまで溯って、失われた時間を、心のなかに、もう一度とりかえしたいような、漠とした気持からだったが、その妻の生れた土地ももう間近にあった。……本郷駅で下車すると、亡妻の家に立寄った。その日の夕方、その家のタイル張りの湯にひたると、その風呂にはじめて妻に案内されて入った時のことがすぐ甦った。あれから、どれだけの時間が流れたのだろう、と、いつも思うことが繰返された。
翌日の夕方、彼は広島駅で下車すると、まっすぐに幟町の方へ歩いて行った。道路に面したガラス窓から何気なく内側を覗くと、ぼんやりと兄の顔が見え、兄は手真似で向うへ廻れと合図した。ふと彼はそこは新しく建った工場で、家の玄関の入口はその横手にあるのに気づいた。
「よお、だいぶ景気がよさそうですね」
甥がニコニコしながら声をかけた。