Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
急に彼はおかしくなった。妻と死別してもう七年になるので、知人の間でとかく揶揄や嘲笑が絶えないのを彼は知っていた。……妹が夕飯の支度にとりかかると、彼は応接室の方へ行ってピアノの前に腰を下ろした。そのピアノは昔、妹が女学生の頃、広島の家の座敷に据えてあったものだ。彼はピアノの蓋をあけて、ふとキイに触ってみた。暫く無意味な音を叩いていると、そこへ中学生の姪が姿を現した。すっかり少女らしくなった姿が彼の眼にひどく珍しかった。「何か弾いてきかせて下さい」と彼が頼むと、姪はピアノの上の楽譜をあれこれ捜し廻っていた。
「この『エリーゼのために』にしましょうか」と云いながら、また別の楽譜をとりだして彼に示しては、「これはまだ弾けません」とわざわざ断ったりする。その忙しげな動作は躊躇に充ちて危うげだったが、やがて、エリーゼの楽譜に眼を据えると、指はたしかな音を弾いていた。
翌朝、彼が眼をさますと、枕頭に小さな熊や家鴨の玩具が並べてあった。姪たちのいたずらかと思って、そのことを云うと、「あなたが淋しいだろうとおもって、慰めてあげたのです」と妹は笑いだした。
その日の午後、彼は姪に見送られて汽車に乗った。