Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
そんな話をきいていると、彼はあの直後、広島の地面のところどころから、突き刺すように感覚を脅かしていた異臭をまた想い出すのだった。
妹のところで昼餉をすますと、彼は電車で楽楽園駅まで行き、そこから八幡村の方へ向って、小川に沿うた路を歩いて行った。遙か向うに、彼の眼によく見憶えのある山脈があった。その山を眺めて歩いていると、嘗ての、ひだるい、悲しい怒りに似た感情がかえりみられた。……飢餓のなかで、よく彼はとぼとぼとこの路を歩いていたものだ。冷却した宇宙にひとりとり残されたように、彼はこの路で、茫然として夜の星を仰いだものだ。だが、生存の脅威なら、その後もずっと引続いているはずだった。今も、生活の破局に晒されながら、こうして、この路をひとり歩いている。だが、とにかく、あれから五年は生きて来たのだ。……いつの間にか風が出て空気にしめりがあった。山脈の方の空に薄靄が立ちこめ、空は曇って来た。すぐ近くで、雲雀の囀りがきこえた。見ると、薄く曇った中空に、一羽の雲雀は静かに翼を顫わせていた。
彼はその翌朝、白島の方へ歩いて行った。寺の近くの花屋で金盞花の花を買うと、亡妻の墓を訪ね、それから常盤橋の上に佇んで、泉邸の川岸の方を暫く眺めた。