Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
その部屋の窓からは、遙かに稲田や人家が展望された。前にいた人が残して行ったらしい大きな古びた財布が片隅にあった。一わたり部屋を見まわすと、すぐに妻はベッドに臥さった。はじめて落着く場所にかえったような安らかさと、これから始ろうとする試煉にうち克とうとする初々しさが、痩せた妻の身振りのなかにぱっと呼吸づいていた。だが、彼はひとり置去りにされたように、とぼとぼと日が暮れて家に戻って来たのだった。
この時から、二つにたち割られた場所のなかで、彼の逍遥がはじまった。隔日に学校へ通勤している彼は、休みの日を午後から病院へ出掛けて行くのだったが、どうかすると、学校の帰りをそのまま立寄ることもあった。巷で運よく見つけた電熱器を病室の片隅に取つけると、それで紅茶も沸かせた。ベッド脇に据えつけられている小さな戸棚には、林檎やバタがあった。いつのまにか、そこは居心地のいい場所になっていたのだ。
いく日も雨が降りつづいた。粗末な学校の廊下も窓もびっしりと湿り、稀れにしかやって来ない電車は、これも雨に痛めつけられていたし、電車の窓の外に見える野づらや海も茫として色彩を失っていた。