Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
だが、高台の上に立つ、大きな病院の建物は、牢固な壁や整った窓が下界の雨をすっかり遮っていた。
「あなたが学校まで歩いてゆく路と、家からこの病院まで来る道とどちらが遠いの」と妻はたずねた。「同じ位だね」と彼がこたえると「まあ、そんなに遠い路をこれまで歩いていたのですか」と妻は彼がこの二年間通っていた路の長さがはじめて分ったような顔つきであった。その路の話なら、これまで寝ている妻に何度も語っていたし、彼にとってはもう慣れていて左程苦痛ではなかった。妻はもっといろんなことを訊ねたいような顔つきで、留守にした家のこまごました事柄が絶えず眼さきにちらついているようであった。だが、彼はそうした妻の顔を眺めながら、つきつめた想いで、何かはてしないものを考えていた。いつも二人は相対したまま、相手のなかに把えどころのない解答を求めあっているのであった。そうして時間はすぐに過ぎて行った。夕ぐれが近づいて、立去る時刻が迫ると、彼は静かなざわめきに急き立てられるような気がした。窓の外に雨はまだ絶望的に降りつのっていた。
「バスでお帰りなさい、バスの時間表がここにあるから、も少し待っていればいいでしょう」