Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme

Aozora Bunko

と妻は雨に濡れて行こうとする彼をひき留めた。

停車場とその病院の間を往来するバスが、病院の玄関に横づけにされた。すると、折鞄を抱えた若い医師が二人、彼の座席のすぐ側に乗込んで腰を下ろした。雨はバスの屋根を洗うように流れ、窓の隙間からしぶきが吹込んだ。「よく降りますね、今年は雨の豊年でしょうか」と医師たちは身を縮めて話し合っていた。やがて、バスは揺れて、真暗な坂路を走って行った。

銀行の角でバスを降りると、彼はずぶ濡れの鋪道を電車駅の方へ歩いた。雨に痛めつけられた人々がホームにぼんやり立並んでいた。次の停留場で電車を降りると、袋路の方は真暗であった。彼はその真暗な奥の方へとっとと歩いて行った。

さきほどから、何か真暗な長いもののなかを潜り抜けて行くような気持が引続いていた。よく降りますね、今年は雨の豊年でしょうか、――そういう言葉がふと非力な人間の呟きとして甦って来るのであった。そういえばバスや電車の席にぐったりと凭掛っている人間の姿も、何か空漠としたものに身を委ねているようである。日々のいとなみや、動作まですべて、眼には見えない一本の糸によってあやつられているのであろうか。